◇パーティの行程
日帰り縦走者が多く、大雪山の銀座通りである。天候に恵まれれば素晴らしい眺望のルートだが、悪天時には危険なルートに豹変する。特に層雲峡から入る場合は注意が必要だろう。天候が荒れるとき(特に冬型の気圧配置のとき)は西風を伴うことが多く、強い向かい風の中での歩行になるからだ。疲労困憊し、最後の旭岳越えが生死を賭けた登りになってしまうこともある。
今回助かったのは、幸運の一語に尽きる。9月中旬はもう初雪の季節。雨が雪に変っていたら、おそらくダメだったろう。雨具(ウエア)はお粗末だったし、ツェルト(簡易テント)や余分の食料もない状況だった。過去の似たような事例では、ほとんどが不幸な結果に終わっている。
縦走、まして風雨の中を強行するのなら、冬山に準じた“防寒・ビバーク装備”は必携である。大人数のパーティなら、体力のあるリーダー格が、万一に備えてテントなども担ぐべきだろう。
入山口…どうしても“旭岳登頂+縦走”をしたい方には、旭岳温泉側からの入山をお薦めする。取り敢えず旭岳山頂を目指し、登頂後に天候と自分の体力から、戻るか進むか判断すればよいからだ。もちろん荒れているときは、旭岳の登頂自体を諦めた方がいいことは言うまでもない。
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◇悪天時の危険な縦走(層雲峡温泉→黒岳→旭岳→旭岳温泉) |
@黒岳7合目(リフト終点)〜黒岳
黒岳北東斜面の急登で、縦走路では最も悪天候の影響を受けない区間である。黒岳の山頂で、初めて強風の洗礼を受け、予想以上の厳しさに驚く人も多い。 |
A黒岳〜黒岳石室〜お鉢平展望台
石室まではロープで区切られた登山道を下り、石室から先はハイマツに囲まれた平坦な道を進む。明瞭で緩やかな登山道(写真)に、「頑張れば何とか行ける」と思ってしまう区間だ。
(黒岳石室からは北海岳経由で間宮岳に向かうルートもある。地形図ではこちらの方が近いように思えるが、雨天や残雪期の赤石川渡渉は危険だし、北海岳への登りも思ったより手間取る。初めての人は中岳経由の方が安全だろう。) |
Bお鉢平展望台〜中岳〜間宮岳
お鉢平の淵に沿った尾根道(写真)になる。風をまともに受けるが、ここからはハイマツなどの身を隠せる場所はほとんど無い。この時点で、風雨が強く、前に進むのが困難であれば、旭岳を越えるのは到底無理である。層雲峡に引き返すか、黒岳石室に避難した方がよい。
どうしても旭岳温泉に行きたい場合は、旭岳登頂を諦め、中岳分岐から裾合平を経て、姿見駅に抜けるルートもある。裾合平(写真)まで下った後は、軽いアップダウンが続くだけだ。登山道は明瞭だし、風を避けて休める場所も多い。花の季節(7月中旬)は逆にこちらの方が楽しめるし、避難ルートとして調べておくべき道である。ただし、残雪の残る時期(6月)は、中岳温泉の手前に雪渓の急な下りがあるので要注意。遭難事故も発生している。 |
C間宮岳〜旭岳
間宮岳は広い砂れきの最高点(分岐)で、ハッキリしたピークではない。分岐を西に進めば旭岳への縦走路だ。ここまで来てしまうと、戻るよりも前進した方が早いと思いがちだが、悪天候の旭岳越えはそんな甘いものではない。
右に熊ヶ岳を眺めながら、旭岳とのコルに下る。コルはキャンプ指定地だが、施設は何もない(写真)。風の通り道にもなっているので、テントサイトとしては厳しい環境である。歩けなくなった女性らは、この岩陰で傘を差しながら、一晩風雨に耐えた。
キャンプ地を過ぎると、旭岳山頂まで高低差200mの登りになる。火山灰と砂れきの広い斜面(初夏は大雪渓)を登り、斜度が緩くなったら山頂だ。砂丘のようにズルズル滑るし、悪天候のときは本当に辛い登りである。 |
D旭岳〜姿見駅(ロープーウェイ)
旭岳山頂からは西尾根を姿見の池まで下り、そこから先はロープーウェイの姿見駅まで明瞭な道になる。
でも、ホッとするのは早い。実はこの区間が最も遭難事故が多いのだ。旭岳を往復する登山者が多いから当然といえば当然だが、理由はそれだけではない。
下りは“砂れきと岩ゴロ”の滑りやすい道だ。疲労も重なって足元が不安定になり、中高年の転倒事故が後を絶たない。ケガ以外に、疲労凍死(夏でも)、病死、道迷いの行方不明も多い。
山頂からの下り始めは、“南〜東〜Uターンして西”と曲を繰り返し、西尾根に出てからは、踏み跡と岩のペンキだけが頼りになる。最も迷いやすい箇所(金庫岩付近)にはロープが設置されているが、それでも下山路を間違える人がいる。
大雪山は初めて、悪天候、視界不良、軽装、疲労、、、悪条件が重なれば、簡単に遭難してしまう。北海道の山は、銀座通りと呼ばれている所ですら、かくも厳しいのである。
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文中でリンクした写真は、2002年9月下旬の記録(愛山渓温泉〜黒岳石室)です。
姿見駅〜旭岳については、2001年10月末の記録(旭岳温泉〜姿見〜旭岳)を参照してください。 |