2004年9月
黒岳〜旭岳縦走・遭難事故

9月13日 黒岳〜旭岳
(日帰り縦走)
自力下山
(低体温症)
女性 60歳 徳島 パーティ
13日午後4時頃、「大雪山系の縦走路(黒岳〜旭岳)で、仲間の女性が疲労で動けなくなった」と、旭岳温泉側に下山した徳島県の登山グループから、旭川東署に救助要請があった。動けなくなった女性(60)にはリーダーの男性(63)が付き添い、二人が山中にとどまっている。
日帰りの予定で装備は軽装。二人はテントや寝袋などは持っていないという。下山したメンバー(13人)のうち、一人の女性(67)も低体温症の症状があり、病院に収容された。
道警山岳救助隊が同日夜に旭岳中腹まで上がったが、風雨が強く、午後9時にこの日の捜索を断念した。

一行は徳島県の山の会のメンバー。13日午前8時ごろ層雲峡温泉を出発し、同日中に黒岳、中岳、間宮岳、旭岳を経由して旭岳温泉まで縦走する計画だった。当初、男女27人で黒岳に向かったが、うち12人は悪天候のため途中で引き返し、15人が縦走を続けたという。その後、二人を山中に残し、13人が旭岳温泉側に下山した。
14日朝、自力で無事下山
大雪山系を縦走中に下山できなくなった徳島県の男女二人は、14日午前、縦走中の大学生に付き添われ、自力で旭岳5合目のロープウェー姿見駅まで下山。女性は病院に収容された(低体温症)。衰弱はしているものの、二人とも生命に別条はないという。

旭岳付近は13日から風雨が強く、視界は二、三メートルしかなかったという。
二人は、仲間と別れた裏旭キャンプ指定地の岩陰で傘を差して風雨をしのぎ、翌14日朝になって再び歩きはじめた。午前7時10分ごろ、縦走中の帯広畜産大山岳部の学生二人が、旭岳の山頂付近を歩いている二人を発見し、登山口のロープウェイ姿見駅まで下山を助けた。
下山途中、女性は何度も「助けて」とうわ言のようにつぶやいていたといい、姿見駅では救助隊員に「すみません。お世話を掛けました」と深々と頭を下げた。
◇パーティの行程
日帰り縦走者が多く、大雪山の銀座通りである。天候に恵まれれば素晴らしい眺望のルートだが、悪天時には危険なルートに豹変する。特に層雲峡から入る場合は注意が必要だろう。天候が荒れるとき(特に冬型の気圧配置のとき)は西風を伴うことが多く、強い向かい風の中での歩行になるからだ。疲労困憊し、最後の旭岳越えが生死を賭けた登りになってしまうこともある。
今回助かったのは、幸運の一語に尽きる。9月中旬はもう初雪の季節。雨が雪に変っていたら、おそらくダメだったろう。雨具(ウエア)はお粗末だったし、ツェルト(簡易テント)や余分の食料もない状況だった。過去の似たような事例では、ほとんどが不幸な結果に終わっている。
縦走、まして風雨の中を強行するのなら、冬山に準じた“防寒・ビバーク装備”は必携である。大人数のパーティなら、体力のあるリーダー格が、万一に備えてテントなども担ぐべきだろう。

入山口…どうしても“旭岳登頂+縦走”をしたい方には、旭岳温泉側からの入山をお薦めする。取り敢えず旭岳山頂を目指し、登頂後に天候と自分の体力から、戻るか進むか判断すればよいからだ。もちろん荒れているときは、旭岳の登頂自体を諦めた方がいいことは言うまでもない。

◇悪天時の危険な縦走(層雲峡温泉→黒岳→旭岳→旭岳温泉)
@黒岳7合目(リフト終点)〜黒岳
黒岳北東斜面の急登で、縦走路では最も悪天候の影響を受けない区間である。黒岳の山頂で、初めて強風の洗礼を受け、予想以上の厳しさに驚く人も多い。
A黒岳〜黒岳石室〜お鉢平展望台
石室まではロープで区切られた登山道を下り、石室から先はハイマツに囲まれた平坦な道を進む。明瞭で緩やかな登山道写真)に、「頑張れば何とか行ける」と思ってしまう区間だ。
(黒岳石室からは北海岳経由で間宮岳に向かうルートもある。地形図ではこちらの方が近いように思えるが、雨天や残雪期の赤石川渡渉は危険だし、北海岳への登りも思ったより手間取る。初めての人は中岳経由の方が安全だろう。)
Bお鉢平展望台〜中岳〜間宮岳
お鉢平の淵に沿った尾根道(写真)になる。風をまともに受けるが、ここからはハイマツなどの身を隠せる場所はほとんど無い。この時点で、風雨が強く、前に進むのが困難であれば、旭岳を越えるのは到底無理である。層雲峡に引き返すか、黒岳石室に避難した方がよい。
どうしても旭岳温泉に行きたい場合は、旭岳登頂を諦め、中岳分岐から裾合平を経て、姿見駅に抜けるルートもある。裾合平(写真)まで下った後は、軽いアップダウンが続くだけだ。登山道は明瞭だし、風を避けて休める場所も多い。花の季節(7月中旬)は逆にこちらの方が楽しめるし、避難ルートとして調べておくべき道である。ただし、残雪の残る時期(6月)は、中岳温泉の手前に雪渓の急な下りがあるので要注意。遭難事故も発生している。
C間宮岳〜旭岳
間宮岳は広い砂れきの最高点(分岐)で、ハッキリしたピークではない。分岐を西に進めば旭岳への縦走路だ。ここまで来てしまうと、戻るよりも前進した方が早いと思いがちだが、悪天候の旭岳越えはそんな甘いものではない。
右に熊ヶ岳を眺めながら、旭岳とのコルに下る。コルはキャンプ指定地だが、施設は何もない(写真)。風の通り道にもなっているので、テントサイトとしては厳しい環境である。歩けなくなった女性らは、この岩陰で傘を差しながら、一晩風雨に耐えた。
キャンプ地を過ぎると、旭岳山頂まで高低差200mの登りになる。火山灰と砂れきの広い斜面(初夏は大雪渓)を登り、斜度が緩くなったら山頂だ。砂丘のようにズルズル滑るし、悪天候のときは本当に辛い登りである。
D旭岳〜姿見駅(ロープーウェイ)
旭岳山頂からは西尾根を姿見の池まで下り、そこから先はロープーウェイの姿見駅まで明瞭な道になる。
でも、ホッとするのは早い。実はこの区間が最も遭難事故が多いのだ。旭岳を往復する登山者が多いから当然といえば当然だが、理由はそれだけではない。
下りは“砂れきと岩ゴロ”の滑りやすい道だ。疲労も重なって足元が不安定になり、中高年の転倒事故が後を絶たない。ケガ以外に、疲労凍死(夏でも)、病死道迷いの行方不明も多い。
山頂からの下り始めは、“南〜東〜Uターンして西”と曲を繰り返し、西尾根に出てからは、踏み跡と岩のペンキだけが頼りになる。最も迷いやすい箇所(金庫岩付近)にはロープが設置されているが、それでも下山路を間違える人がいる。
大雪山は初めて、悪天候、視界不良、軽装、疲労、、、悪条件が重なれば、簡単に遭難してしまう。北海道の山は、銀座通りと呼ばれている所ですら、かくも厳しいのである。

文中でリンクした写真は、2002年9月下旬の記録(愛山渓温泉〜黒岳石室)です。
姿見駅〜旭岳については、2001年10月末の記録(旭岳温泉〜姿見〜旭岳)を参照してください。


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